ティム・オブライエンベスト7!入門者へのおすすめは何?村上春樹が翻訳した本当のベトナム戦争小説

ティム・オブライエンの小説コレクション アメリカ文学

皆さんは、ティム・オブライエンを知っていますか。
ティム・オブライエンはアメリカの小説家で、ベトナム戦争をテーマとした小説を徹底して書いている作家です。
日本では、作家の村上春樹さんがティム・オブライエンの作品に惚れ込み、翻訳して紹介したことで有名な作家でもあります。

このティム・オブライエンは、ぼくが大好きな小説家なのですが、ぼくの周囲ではティム・オブライエンのことを知っている人がひとりもいません。
これは、はっきり言って勿体ないです……!
ティム・オブライエンの小説は、本当に面白いんですよ。
愚直で、正直で、とっても骨太な作家さんなんです……!

今回は、ティム・オブライエンを知らない人に向けて、ティム・オブライエンの魅力について解説したいと思います。
ティム・オブライエン入門者、必見です!

そもそもティム・オブライエンとはどんな作家?

2012年テキサス・ブックフェスティバルのティム・オブライエン

テキサス・ブックフェスティバルのティム・オブライエン(2012年)
(出典:wikipedia

冒頭でもお話しましたが、ティム・オブライエンはアメリカの小説家です。
ミネソタ州オースティン生まれで、1968年にマカレスター大学政治学部を卒業したあと、ベトナム戦争を経験しています。

兵役を終えたあと、ティム・オブライエンはハーバード大学大学院で政治学を勉強し、ワシントン・ポストに就職しました。

そして、1973年に処女作『僕が戦場で死んだら』を発表し、その6年後に、1979年に『カチアートを追跡して』で、アメリカでもっとも権威ある文学賞の一つ、全米図書賞を受賞します。

その他の代表作としては、核時代の恐怖に苦しみながら生きる男の物語『ニュークリア・エイジ』や、O・ヘンリー賞を受賞した短編『ゴースト・ソルジャーズ』が収録された『本当の戦争の話をしよう』などがあり、どれも読んでいて胸を揺さぶられる作品たちです。

ティム・オブライエンは、冒頭でも述べましたが、小説家の村上春樹さんが高く評価しており、多くの作品の翻訳をしています。
ここで、年代順にティム・オブライエンの作品を紹介したいと思います。

ティム・オブライエンの年代順作品一覧表

まずは、長編小説から。

【ティム・オブライエンの長編小説一覧】

作品名 アメリカ
発表年
日本
発表年
翻訳者 出版社
僕が戦場で死んだら
If I Die in a Combat Zone, Box Me Up and Send Me Home
1973年 1994年 中野圭ニ 白水社
Northern Lights 1975年 未翻訳
カチアートを追跡して
Going After Cacciato
1978年 文学の冒険シリーズ 1992年
新潮文庫 1997年
 生井英考 国書刊行会
新潮社
ニュークリア・エイジ
The Nuclear Age
1985年 1989年 文藝春秋単行本(上下巻)
1994年  文春文庫
村上春樹 文藝春秋
失踪
In the Lake of the Woods
1994年 1997年 坂口緑 学習研究社
Tomcat in Love 1998年 未翻訳
世界のすべての七月
July, July
2002年 2004年 文藝春秋単行本
2009年 文春文庫
村上春樹 文藝春秋

個人的には、日本未翻訳の『Northern Lights』と『Tomcat in Love』の方も翻訳されたら良いのにな、と思っています。
それでは、お次は、短編小説とエッセイについても紹介しますね。

【ティム・オブライエンの短編小説・エッセイ一覧】

作品名 アメリカ
発表年
日本
発表年
翻訳者 出版社
(短編小説)
Where Have You Gone, Charming Billy?

(こちらのリンクは、本短編の学習ガイドです)
1975年 未翻訳
(短編小説)
本当の戦争の話をしよう
The Things They Carried
1990年 1990年 文藝春秋単行本
1998年 文春文庫
村上春樹 文藝春秋
(エッセイ・短編小説)
月曜日は最悪だとみんなは言うけれど
収録作
【短編小説】
〇ノガレス (Nogales
1993年
〇ルーン・ポイント(Loon Point
1993年
【エッセイ】
〇私の中のヴェトナム(The Vietnam in Me
1994年
2000年 中央公論新社単行本
2006年 中央公論新社新書
村上春樹 中央公論新社
(エッセイ)
Dad’s Maybe Book
2019年 未翻訳

少しだけ補足しておくと、『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』は、ティム・オブライエンの作品だけがまとめられた本ではありません。

『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』は、村上春樹さんが特に注目しているアメリカ文学作家たちについて紹介している本です。
この本の中では、ティム・オブライエンの他に、レイモンド・カーヴァーやジョン・アーヴィング、トム・ジョーンズ、デニス・ジョンソンなど、アメリカの人気作家が紹介されています。

また、『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』に収録されているティム・オブライエンの短編小説である『ノガレス(Nogales)』と『ルーン・ポイント(Loon Point)』は、長編小説である『世界のすべての七月』にも収録されています。

よって、この2つの短編は、『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』と『世界のすべての七月』のどちらでも読むことはできます。
でも、一つだけ注意があります。
実は、収録された短編たちは、それぞれ、文章が少しだけ異なっているんです。
特に『ルーン・ポイント』については、『世界のすべての七月』が長編小説の形をとっているため、内容に整合性を持たせるため、大幅に改変されている箇所があります。
興味のある人は、見比べてみて、ティム・オブライエンの意図を探ってみるのも面白いかもしれませんね。

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初心者におすすめのティム・オブライエンの長編小説・短編小説・エッセイ

さてさて!
それでは、ぼくが独断と偏見で選んだティム・オブライエンのベスト7を発表していきたいと思います!
なお、このベスト7には、日本で未翻訳の作品は除き、日本語に翻訳されているものだけを選びました!

2020年7月の時点で、先ほど紹介した7つの本が、日本語で翻訳されているティム・オブライエン作品の全てとなります。

ちなみに、ランキングについては、ティム・オブライエンが好きな他の人が見たら、
「これは違うぞ……! おれのティム・オブライエンのベストはこうだ!」
みたいなこともあるかもしれません。
ですが、自分なりにティム・オブライエンをどのような順番で読んでいったらいいか、を考えながら一生懸命、並べてみましたのでよろしくお願いします……!

それでは、ティム・オブライエン入門者に読んでほしい小説ランキング、始めていきましょうか!

1位 本当の戦争の話をしよう

【『本当の戦争の話をしよう』のあらすじ】
ある一人の兵士が、日盛りの小道で、自分が殺した男を呆然と見つめている。
ある一人の兵士は、木陰から一歩を踏み出したその矢先、まるでセメント袋のように倒れた。
祭りの午後に、故郷の町をあてどなく車で走るベトナム帰還兵。
今、ベトナムで起こった、本当の戦争の話が語られる。

1位は、やっぱり、『本当の戦争の話をしよう』です!
この作品は、ベトナム戦争をテーマとしている短編小説集です。
ベトナム戦争といえば、『プラトーン』や『地獄の黙示録』、『ディア・ハンター』といった名作映画、それに、最近ではスパイク・リー監督の『ザ・ファイブ・ブラッズ』が記憶に新しいため、興味がある人も多いのではないでしょうか。
また、『本当の戦争の話をしよう』は、短い話ばかりでちょっとした休憩の時間などにスラスラ読めるので、ティム・オブライエン初心者にも入っていきやすいかと思います。

『本当の戦争の話をしよう』は、ティム・オブライエンの小説の中でも、読んでいる人は非常に多いかと思います。それは、Amazonレビューからもうかがえます。
その点からも、自信を持ってこの小説をおすすめすることができます。

でも、ティム・オブライエンの作品は、短編よりも長編小説が多いです。
それなのに、なんで、ぼくが長編小説を1位にしなかったのか。
それは、長編小説の場合、少しだけ読み手のハードルが上がるからです。

もちろん、ティム・オブライエンの小説はどれも面白いです。
面白いくはあるのですが、いきなり、『ニュークリア・エイジ』のような、ニ郎系ラーメンの如く、どっしりボリュームのある長編小説に挑戦してしまうと、途中で挫折してしまうかもしれないからです。
詳しくは、『ニュークリア・エイジ』の項目でも解説していますが、ティム・オブライエンは長編小説を書くと、持てるすべてを注ぎ込んじゃうので、それなりにボリュームが出てしまうんですね。

なので、ティム・オブライエンの小説は初めて、というティム・オブライエン入門者の方には、この『本当の戦争の話をしよう』で、かれの描く世界がどんなものなのかを体験してみてほしいと思います。

ちなみに、『本当の戦争の話をしよう』のアメリカでの出版年は1990年3月28日、日本での出版年は1990年10月1日。
つまり、同じ年内に日本でも出版がされており、村上春樹さんが、当時、本当にティム・オブライエンに注目していたことが分かるかと思います。

実際に、この短編小説集は本当に良い作品たちが多く、特に、このなかに収録されている『ゴースト・ソルジャーズ』は、オー・ヘンリー賞を受賞しています。
その他の作品に関しても、読んだあとに心に残る作品が多く、それぞれ甲乙つけがたく、ぼくにとっても大切な小説です。

たとえば、『待ち伏せ』というたった7ページの短編は、語り部である『私』の人を殺した体験について描かれています。
それがフィクションなのか、ノンフィクションなのかは分かりませんが、ディテールがしっかり書き込まれているため、本当にあった、ティム・オブライエン自身の体験なのではないか、と感じさせる説得力があるのです。
『待ち伏せ』という作品は、もしかしたら、ティム・オブライエンがベトナム戦争について書き続ける理由、その核心の部分が書かれているのかもしれません。

本当の戦争のことが知りたい。
ベトナム戦争のことが詳しく知りたい。
そのような、戦争に興味がある人たちにもおすすめの小説です。

『本当の戦争の話をしよう』をもっと詳しく知りたい!

2位 ニュークリア・エイジ

【『ニュークリア・エイジ』のあらすじ】
1960年代という時代の夢と挫折を背負いながら、冷戦の時代、つまり核の時代を生きていく、ということが描かれている。
元チアリーダーの過激派、筋肉のあるモナリザであるサラ。
200ポンドのティナ。
爆弾狂のオリー。
それから、核シェルターを掘り続けている『僕』。
個性豊かな、そして、どこにでもいるかもしれない人々たちの、激しく、そして、哀しい青春群像劇。

さて、次は2位です。
先ほどもお話しましたが、『ニュークリア・エイジ』は、ティム・オブライエンの二郎系ラーメンとでも言うべき、ててんこもりの長編小説です。
この作品も、村上春樹さんが翻訳しました。
そして、日本で初めて、ティム・オブライエンの作品が紹介された作品でもあります。
村上春樹さんは、この小説を新たなジャンルとして区分すべきと考え、『総合小説』というカテゴリを設けました。
総合小説、と名前がつくからには、ボリュームもすごく、ラーメン大盛&トッピング全部のせ、みたいな感じです(笑)
あとがきから本編まで含めて650ページを超えているので、読み終えるのに相当パワーがいることには間違いありません……!
でも、本当に魅力的な作品なんです……!

村上春樹さんは『ニュークリア・エイジ』を読んだとき、この小説からある種の空白感、飢餓感、乾きのようなものを感じたそうです。
そして、『ニュークリア・エイジ』を読み終えたあとに、誰かとすごく話し合いたい、という気持ちになったのでした。
ぼく自身も、初めてこの小説を読んだとき、同じように、ああ、この作品について誰かに話したい! という気持ちになったのを覚えています。
結局、話すような相手がいなかったのですが……。

ぼくは、読み終えたあとに「ああ、面白かった」で終わらせてしまうのではなく、「ああ、この小説について無性にだれかと話し合いたい!」と感じるものこそ読みたいです。
物語を誰かに語ることなく消費してしまうのも悪いとは思いませんが、それだけではちょっぴり寂しいじゃないですか。
ぼくは、何かを読んだときにそれを退屈しのぎ・暇つぶしとして消費しきるのではなく、それをきっかけとして誰かと繋がりたいです……!

繰り返しにはなりますが、村上春樹さんは『ニュークリア・エイジ』を『現代の総合小説』と表現しています。
総合小説と呼ぶ理由は、ティム・オブライエンが、自らの精神性のありとあらゆる要素や断片を使って、この小説を書き上げているからです。
『ニュークリア・エイジ』で表現しようとしているのは、人の心のありよう、全てなのです。

でも、多くの場合、このような試みで小説を書こうとすると破綻が待っていることになります。
それはそうですよね。
『全て』のことを書こうとしたら、長くなり過ぎて完結させられない危険が高くなります。
物語が未完で終わるだけでなく、話の内容もあちこちへ移動するため、作品が散漫になってしまいます。
でも、そんな難しい試みに対して無骨に真正面から取り組んでいる作家がティム・オブライエンなのです。
ぼくは、そんな無謀な試みをしようとするチャレンジャーたるティム・オブライエンに本当に尊敬の念を覚えます。

ぼくにとって、ニュークリア・エイジは、単に消費して終わる物語ではなく、心の中に残る特別な作品として今も胸の中で息づいています。
皆さんにも、ぜひ、読んでみてほしいです。

いろいろ書きたいことがありすぎて、すごく長くなってしまいました。。。
余談ではありますが、『ニュークリア・エイジ』の主人公はプレッパーという側面もあるので、以下の記事でも少しだけ紹介しています。
もし、興味がある人は、こちらも読んでみてください。

プレッパー(ズ)が登場する映画・アニメ・漫画・小説・ドキュメンタリーを紹介
プレッパー(ズ)は、感染症や災害などのカタストロフィに備えて備蓄やサバイバル訓練を行っている人たちです。そんなプレッパー(ズ)が登場する映画・アニメ・漫画・小説・ドキュメンタリーを紹介するので興味がある人は必見です。

『ニュークリア・エイジ』をもっと詳しく知りたい!

3位 月曜日は最悪だとみんなは言うけれど

【『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』の内容】
村上春樹が注目するアメリカ文学における人気作家のエッセイ・短編小説を紹介。
紹介している作家のほとんどは、村上春樹自身が個人的に会って話をしたことがあるので、その作家の外見や雰囲気、人柄についても知ることができる。
『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』で取り上げらている作家は、
●ティム・オブライエン(Tim O’Brien)
●レイモンド・カーヴァー(Raymond Carver)
●ジョン・アーヴィング( John Irving)
●トム・ジョーンズ(Thom Jones)
●デニス・ジョンソン(Denis Johnson)
ティム・オブライエンについては、かなり紙面が割かれており、1つのエッセイと、2つの短編小説の計3つの作品が紹介されている。

先ほども少しだけ触れましたが、『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど 』は、村上春樹さんが、自身の注目しているアメリカの文学作家たちを紹介している本です。

そのため、この本1冊で、ティム・オブライエンだけでなく、村上春樹さんが注目している他の作家のことが良く分かるようになっています。
また、この本1冊だけで、ティム・オブライエンの物語だけではなく、その人柄や雰囲気のようなものも分かるため、ティム・オブライエンという作家とその物語について、より多角的に味わうことができるでしょう。

特に、各作家の短編小説やエッセイを紹介する前に、村上春樹さんが添えている前書きが、的確であったり、興味深かったりで面白いんですよね。
ぼくは、ときどき、小説本編よりも、作家や翻訳者のまえがき・あとがきの方が面白い、と感じてしまうことがあるので、『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』も、非常に楽しく読ませていただきました。

ちなみに、この『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』を購入するのなら、中央公論新社の単行本の方ではなく、同社の新書版である『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど (村上春樹翻訳ライブラリー)』を購入することがおすすめです。

なぜなら、『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど (村上春樹翻訳ライブラリー)』には、村上春樹さんのエッセイである『翻訳の寿命は、いったいどれくらいのものなのだろう』が収録されているからです。
そのため、単行本ではなく、新書版の方を購入した方が、エッセイ1つ分お得なのです(笑)

『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど (村上春樹翻訳ライブラリー)』は、 個人的には、ティム・オブライエンの裏ランキングベスト1に該当する作品だと思っています(笑)

『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど』をもっと詳しく知りたい!

4位 カチアートを追跡して

【『カチアートを追跡して』のあらすじ】
ある日、突然、ベトナムの戦場からカチアートがいなくなった。
カチアートは、ぽっちゃり丸顔のイカレタ男だ。
かれは、8600マイルも彼方のパリを目指して脱走したのだ。
そのせいで、第三分隊は、カチアート追跡に出発することになった。
ベトナムからパリへ向かう脱走兵と、その追跡者たちの奇想天外な冒険ファンタジー。

4位は、『カチアートを追跡して』です。
こちらは、アメリカでもっとも権威がある文学賞の一つである全米図書賞を受賞しています。
ベトナム戦争が生んだ最高の小説と評価が高いこの小説は、なんと、同じ1978年に刊行されたジョン・アーヴィングの大ベストセラー小説『ガープの世界』をおさえて、全米図書賞をもぎ取ったのです!

というわけで、ティム・オブライエンという作家は、日本ではそれほど有名ではないけれど、実は、アメリカではかなり評価の高い作家なのです。
国内では有名だけれど、海外ではあまり知名度がない、みたいなことは良くあることです。
そのため、「日本では知名度が低いけれど、私は大好きな作家なんだけどなー」というときは、その作家のことを良く調べてみると、実は、自国では超有名な作家だった、みたいなこともあるかもしれませんね。

『カチアートを追跡して』は、村上春樹さんの翻訳ではありません。
本書は、生井英考さんが翻訳をしています。
生井英考さんには、ベトナム戦争についてのいくつかの書籍があり、それをきっかけとして、ベトナム戦争をテーマとした『カチアートを追跡して』も翻訳することになりました。

『カチアートを追跡して』は、ティム・オブライエンの他の作品と比べると、かなりファンタジー色が強いです。
ベトナム戦争のリアルな描写がありつつも、時間や空間が目まぐるしく変わり、その幻想的な雰囲気に不思議な味わいがあります。

ティム・オブライエンの最高傑作と評価する読者もいるくらいで、ぼく自身も、とても好きな作品です。
ティム・オブライエンは、ベトナム戦争を一貫して描き続けている作家ですが、同じベトナム戦争でも、ここまで異なった味付けで描くことができるのだな、と感心しました。
『カチアートを追跡して』は、ティム・オブライエンの引き出しの広さや野心的な試みを感じることができる一作です。

『カチアートを追跡して』をもっと詳しく知りたい!

5位 世界のすべての七月

【『世界のすべての七月』のあらすじ】
30年ぶりに、1969年卒の男女が同窓会に集う。
かれらは結婚し、離婚し、キャリアを積んでいる。
かれらは、一部の記憶を封印し、古傷を心と身体に残し、夢と苦笑いを抱いて、そこに集まった。
人生に挫折し、幻滅し、それでもハッピーエンドを求めて足掻く人々の人生を描き尽くした感動巨編。

5位は、『世界のすべての七月』です。
『世界のすべての七月』は、村上春樹さんが翻訳した3冊目のティム・オブライエンの小説です。
そして、ティム・オブライエンの翻訳された作品のなかで、一番新しい作品でもあります。

もちろん、この小説でもベトナム戦争は扱われています。
ですが、過去の作品と比べると、『世界のすべての七月』のなかでは断片的で、その比率は少なめです。

『世界のすべての七月』は、ティム・オブライエンの後期の作品とされるだけあり、テクニック的にはとても向上しており、極上の文学を味わえるでしょう。
文章はゴテゴテしておらず無駄がなく、マジック・リアリズムのバランスも絶妙。
ティム・オブライエンの小説家としての洗練を感じさせる1作です。

また、この小説からは、村上春樹さんが本当に本当に強く、このティム・オブライエンという作家に影響を受けていることが分かります。
たとえば、この小説には、『リトル・ピープル』というタイトルの章があり、それは、村上春樹さん自身のベストセラー小説である『1Q84』でも、とても重要な意味を持つキーワードとして用いられています。
(もちろん、言葉としてもらっているだけで、パクリではありません)

この小説は、ぼくとしては、若い世代の人というよりは、特に、壮年、中年、初老にさしかかるくらいの人たちにおすすめしたいです。
もちろん、若い人たちも楽しめるのですが、それでも、50代に近い人たちの方が、
「ああ、分かるよ、ぼくもこういう気持ちを抱えて生きているんだ」
といった共感を持ちながら、本書を読み進めていくことができるでしょう。

作家として更に洗練されたティム・オブライエンの極上の物語を味わってみてください。

『世界のすべての七月』をもっと詳しく知りたい!

6位 僕が戦場で死んだら

【『僕が戦場で死んだら』のあらすじ】
1968年の夏、22歳でぼくはベトナムへ行った。
きびしい暑さとぬかるみのなかで、僕たちは狙撃兵に怯えながら行軍する。
死の存在は、常に、僕たちの隣にあった。

『僕が戦場で死んだら』は、村上春樹さんの翻訳ではなく、中野圭二さんの翻訳となります。
中野圭二さんはティム・オブライエンの他に、ジョン・アーヴィングやトム・ウルフの小説などを翻訳しています。
ぼくは、村上春樹さんの小説が好きで、ティム・オブライエンの小説を読むことになったので、『僕が戦場で死んだら』を読んだのは、ずっと後の方でした。

でも、この小説の冷静な、淡々とした戦争の描写は、騒々しくない分、逆に真に迫るものがあるように感じました。
この小説では、作者と同名の主人公が登場します。
そのため、フィクションなのか、ノンフィクションなのか判断がしづらいのですが、ぼくは、限りなく本当に近いことがこの小説の中に描かれているのではないかな、と感じました。
デビュー作で粗削りではあるものの、何か大切なことを伝えようとしているのではないか、という深みを感じる小説です。
文章にもひねりが効いており、いろいろなものを詰め込もうとした、野心的な処女作となります。
完全に洗練されていないからこそ、輝く魅力がある、とでも表現すれば良いのでしょうか。

『僕が戦場で死んだら』は、長編小説ではありますが、それぞれの章が独立し、それなりに完結しています。その完結した一つ一つの章を積み重ねていくことで長編小説ができているのは、他のティム・オブライエンの作品とも共通しているところです。
このようなティム・オブライエンの考え方は、長編小説を短編小説の連なり、であると解釈することもできます。
その意味では、ティム・オブライエンの小説は、忙しいときも短編を読むような気持ちで少しずつ読み進めていくような楽しみ方も許されているのです。

『僕が戦場で死んだら』をもっと詳しく知りたい!

7位 失踪

【失踪のあらすじ】
若き政治家ウェイドは、スキャンダルのために落選する。
静養するたえに、ウェイドは妻キャシーといっしょに湖畔の山荘へ行った。
その六日後に妻が失踪してしまう。
妻の失踪の疑惑の目はウェイドへと向いた。
ウェイドとキャシーの間に起こった真実とは、何なのだろうか。

ぼくのおすすめの最後は、1994年に発表された『失踪』となりました。
でも、誤解して欲しくないのですが、『失踪』が一番作品として劣っているから、ということではありません。
単純に、この『失踪』という小説が、一番入手がしにくい作品となっているからです。
絶版かつ、2020年7月の時点でAmazonにおいて4000円ほどで取引がされており、普通の小説の数倍以上の価格となっています。

で、肝心の内容の方はというと、これも素晴らしく良いんです。
この小説では、ベトナム戦争で起きたソンミ村虐殺事件について書かれています。
ティム・オブライエン自身は、直接、ソンミ村虐殺事件を体験したわけではありませんが、この事件がかれに大きな影響を与えたことが良く分かります。

『失踪』の原題は、『In the Lake of the Woods』で、このタイトルには、主人公の喪失感がよく表れていると思いました。

あとで紹介しますが、この小説は映像化もされています。
こちらのタイトルも、『In the Lake of the Woods』と、原題と同じです。

でも、残念ながら、『In the Lake of the Woods』は、日本では公開されていませんので、もし興味がある人は、海外の日本語字幕や吹替のないものを確認するしかないでしょう。
とても面白そうなので、一度、見てみたいのですが……。

ぼく個人としては、『失踪』は、他のティム・オブライエンの小説を読んだあとで、さらにもっと、かれの小説世界を味わいたい、という人におすすめしたい一冊です。

『失踪』をもっと詳しく知りたい!

さてさて、いかがでしたでしょうか!
ティム・オブライエンのおすすめ小説ランキング、ベスト7が出そろいました。
このなかで、皆さんが読みたくなるような一作があれば良いなと思います。

今回は、日本で翻訳された小説だけを選びましたが、ティム・オブライエンの作品には、日本で未翻訳の作品がいくつもあります。
特に、ティム・オブライエンが長い休筆期間を終えて、満を持して出したエッセイ『Dad’s Maybe Book』(2019年発表)は、早く翻訳されないかなー、と心待ちにしています。

『Dad’s Maybe Book』が出たら、ランキングの順位はまた変わってしまうかもしれませんね(笑)

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ティム・オブライエンの小説で映画化されているものは?

さて、ティム・オブライエンの小説のことは分かった。
じゃあ、映画化されたかれの原作はあるの?
と思った人もいるかもしれません。
小説だけでなく映画でティム・オブライエンの作品が楽しみたい、と思った人に向けて、こちらでは映像化作品を紹介します。

実は、先ほども少し触れているのですが、ティム・オブライエンの作品は、映像化作品があまりありません。
とても良い作品ばかりだと思うのですが、意外と映像化されていないんですよ……。
ただ、数は少ないのですが、映像化している作品もあるので、せっかくなのでこちらも紹介したいと思います。
それぞれ、稀少な作品たちです。

A Soldier’s Sweetheart~グリーンズ/暗闇の殺戮部隊(1998年アメリカ)

A Soldier's Sweetheart~グリーンズ/暗闇の殺戮部隊の画像

(出典:IMDb

【『A Soldier’s Sweetheart~グリーンズ/暗闇の殺戮部隊』のあらすじ】
ヴェトナム戦争の中で、ラットは後方の安全地帯で医療に従事する。
ある日、同僚のフォッシーが、戦場に自分のガールフレンドを呼ぶ、と言い出した。
そして、本当に、自分の彼女のマリアンを呼び寄せてしまう。
マリアンは部隊の人気者になる。
しかし、戦況が悪化して、彼女も怪我人の応急処置を手伝うようになる。
医療部隊の隣には、陸軍精鋭部隊である『グリーン・ベレー』通称『グリーンズ』が留まっていた。
マリアンは、次第に戦争の影響を受けて変わっていく。彼女は次第に『グリーンズ』に興味を持つようになっていく。
そのようにして、マリアンは、グリーンズの任務に同行することになる。

A Soldier’s Sweetheart~グリーンズ/暗闇の殺戮部隊』は、ティム・オブライエンの短編小説集『本当の戦争の話をしよう』を原作にしています。
映画の原題である『A Soldier’s Sweetheart』は、本作に出てくる一節の『Sweetheart of the Song Tra Bong』が由来です。
残念ながら、『A Soldier’s Sweetheart~グリーンズ/暗闇の殺戮部隊』はDVD化されておらず、VHSのみとなっているので、非常にレアな作品です。
『A Soldier’s Sweetheart~グリーンズ/暗闇の殺戮部隊』は、ぼくのように、未だに、自宅にビデオデッキがある人だけ楽しむことができるでしょう。
ちょっと珍しいかもしれませんが、ぼくは、このようなDVD化されていないレアな映画を集める趣味があります。
過去の映像を、ノイズ交じりの古いVHSで見ていると、何となく落ち着くんですよね(笑)
なんでだろう、懐かしいから、でしょうか。
ノスタルジーに浸ってしまいます。

この『A Soldier’s Sweetheart~グリーンズ/暗闇の殺戮部隊』は映画として知名度はそれほど高くありません。しかし、この映画には、キーファー・サザーランドが主演を務めています。
海外ドラマ『24 -TWENTY FOUR-(トゥエンティフォー)』でブレイクする前の若きキーファー・サザーランド(Kiefer Sutherland)が主役のラットを演じているんですね。

そのため、ティム・オブライエンの原作だから見たい、というだけでなく、キーファー・サザーランドのファンの人も、かなり楽しめる作品になっています。

『グリーンズ』をもっと詳しく知りたい!

In the Lake of the Woods(1996年アメリカ)

【『In the Lake of the Woods』のあらすじ】
上院議員候補のジョン・ウェイランは、選挙キャンペーンの終わり近くに、自身がベトナムで村の虐殺を命じ、それに参加したとして告発される。
それによって生じた非難は、彼のキャリアにひどいダメージを与え、彼の結婚生活まで危険にさらした。
ジョンと妻のキャシーは隔離された小屋に逃げる。
そして、ある朝、ジョンが起きてみると、彼女がいなくなっていることに気付く。

この映画は、タイトルの通り、ティム・オブライエンの小説である『失踪(In the Lake of the Woods)』を原作としています。
『失踪』は、2020年7月時点で絶版となっており、日本語に翻訳されたティム・オブライエンの作品のなかでも特に入手が困難な作品です。
その失踪を原作とした『In the Lake of the Woods』は、案の定、海外版のDVDしかなく、日本語字幕や吹替がついたものが発売されていないのが残念なところです。

しかしながら、日本ではそれほど人気が伸びなかっただけの話で、この映画がアメリカで映像化されていることを考えれば、『失踪』がかなり面白い作品であることは間違いないと思います。

『In the Lake of the Woods』をもっと詳しく知りたい!

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ティム・オブライエンとベトナム戦争の関係

若き日のティム・オブライエン

(ベトナム戦争で従軍した若き日のティム・オブライエン
出典:PORTCITYDAILY
写真は、テキサス大学ハリーランサムセンター提供)

ティム・オブライエンは、ベトナム戦争において、1969年~1970年までの1年間を歩兵として戦闘に参加しました。
また、ティム・オブライエン自身は直接参加してはいませんが、かれの所属した第23歩兵師団の一部は、かれがベトナムに着く前にソンミ村虐殺事件を引き起こしています。

ソンミ村虐殺事件は、ベトナム戦争で起こった虐殺事件のなかでも特に血生臭い事件の一つです。
そして、アメリカ軍の歴史に残る大虐殺事件でもあります。

アメリカ軍は、ソンミ村虐殺事件において、無抵抗のベトナム人住民504人を無差別射撃などで虐殺しました。
殺された人たちの中には、180人以上の妊婦も入れた女性と、170人以上の乳幼児も入れた子供がいました。

ソンミ村虐殺事件は、その後、ベトナム反戦運動のシンボルとなり、アメリカ軍が世論の支持を失うきっかけとなりました。
このソンミ村虐殺事件について、自身の小説で触れることがあるように、ベトナム戦争とこのような虐殺事件が、ティム・オブライエンの作品に強い影響を与えているのは言うまでもありません。

ティム・オブライエンとかれ自身のベトナム戦争における体験について知りたい、という人は、『月曜日は最悪だとみんなは言うけれど 』に収録されているエッセイ『私の中のヴェトナム(The Vietnam in Me)』を読むことをおすすめします。

このエッセイは、痛々しく、美しく、真摯なエッセイであり、翻訳者である村上春樹さんが語るように、ティム・オブライエンという小説家の最も素晴らしい部分、最も弱い部分が同時に出ています。
『私の中のヴェトナム』は、ティム・オブライエンという作家のことを深く知るには、とてもおすすめのエッセイです。
ティム・オブライエンという作家は、決して器用な作家ではないと思います。
でも、問題に真正面からぶつかり、傷だらけになりながらも、誠実に、かつ野心的な試みを行おうとする作家です。
そんな人間になれたら、と憧れてしまっている自分が少しだけいます。

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まとめ

いかがでしたでしょうか。
ここまで、ティム・オブライエンについて徹底特集してきました。

ティム・オブライエンは、ぼくの大好きな作家のひとりです。
そんなティム・オブライエンの作品を年代順にまとめ、入門者におすすめの小説・エッセイのベスト7、かれの小説を原作とした映画、それから、ティム・オブライエンとベトナム戦争の関係について紹介していきました。

長くなってしまいましたが、ここまで付き合ってくださり、ありがとうございます!
ティム・オブライエンの新作など出たり、かれの新情報が出ましたら、また更新していくので、ぜひ、お付き合い頂ければ幸いです。

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